COACHING OF “LIFESKILL”

\ ライフスキル視点のコーチング /

スポーツにおける心理面の成長の可視化 ライフスキル

LIFE SKILL

▲ スクールコーチに向けたライフスキル勉強会:FC東京

私は指導者時代、「勝利」のためには「スポーツの楽しさ」を実感することと、目標に向けてチームメイトと連帯していく「人間力」の二つが、両輪でまわるようなコーチングを目指していました。しかし、自分のなかに、その信念はあっても、それを選手たちに伝えることや共有することの困難さも感じていました。「勝った」、「負けた」は目に見えやすく、どうしても技術のトレーニングが優先され、目に見えにくい心理面は、技術の「次」として扱われることが多いのです。この心理面の成長や重要性をどのようにしたら、選手たちに説明できるのか、もっと見えやすいものとして扱うことができないかというのが、私の長い間の問題意識でした。そうしたなかで、研究者になってからは「ライフスキル」という概念に出会いました。「ライフスキル」という言葉は,1970年代後半に,コーネル医科大学のボドウィン博士が「社会生活に必要な能力としてライフスキルが重要」と述べたのが始まりとされています(吉田 、2013)。1990年代には,WHO(世界保健機関)でもさまざまな社会的な問題に対処する能力として,ライフスキルを推奨しており、「日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して,建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」(WHO 1993=1997)と定義しています。自己認識や共感性,効果的コミュニケーション,ストレス対処など10のスキルを構成要素として挙げていますが、これらを獲得することは,自らの内面における心理的変化や自己を取り巻く周囲の環境などの社会的変化に対する適応能力を高めるのに非常に重要であるとされています。

競技と人間力の両輪を目指す取り組み

同じころ、日本においては大学スポーツ選手の不祥事が相次いだことが問題となりました。競技引退後のセカンドキャリアの課題も見られるようになりました。こうしたことを受け,2005年に「アスリートのためのライフスキルプログラム研究会」が有志によって立ち上げられ,競技と人間力の両輪を目指す「アスリートのためのライフスキルプログラム」のスタート教材が発刊されました。スポーツ場面には目標に向けて、挫折を乗り越えるために、仲間と協力したり、その解決方法を模索したり、自分で考えて実践していくことが繰り返し求められます。こうした心理面の獲得は繰り返すことで「スキル」となり、それは人生においても汎用できるライフスキルとなるという考えです。

アスリートの心理面を計るライフスキル尺度

アスリート自身がパフォーマンスの現状値を知り,未来へつなげるための指標は不可欠であり、近年では高度な技術開発によって技術や体力は目に見える形でフィードバックされています。それらはパフォーマンスの改善に役立てられ次の目標設定へとつなげることが大事になります。一方で心の成長は,指導者やチームメイト,生活環境などスポーツ場面以外の環境要因にも左右されることが多くあることから、「心の成長」のを可視化は困難とされてきました。しかし、筆者が共同研究者として携わった島本らの研究(島本ら、2013)ではその概念をライフスキルと定義し可視化しました。島本らは「アスリートらが日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して建設的かつ効果的に対処し,一定の成果を生み出していくためには実際,どのようなライフスキルの獲得が強く推奨されるのだろうか」という,問いを明らかにしていくためにライフスキルの概念を10の構成要素で示したのです。手続きの一つ目として,「日本一」を達成した個人を含む,一流のスポーツ指導者10名に対して自由記述調査を行い,アスリートに求められるライフスキルの側面について検討しました。そこで収集された170以上もの記述を精選,整理することによって、「最善の努力」から「ストレスマネジメント」の側面をアスリートに求められるライフスキルの仮説モデルとして示したのです。その後、予備調査や因子分析による因子構造の抽出,各因子の信頼性・妥当性を検証していく作業を行い、「アスリートのライフスキル尺度」が報告されました。

コーチングに「仮説」を持つライフスキルプログラム

このホームページでは、「コーチングの視点を変えるライフスキルプログラム」を紹介しています。アスリート自身が自分の心理面の現状値や成長をライフスキル尺度で確認できることと、コーチ自身のコーチングにも影響を与えます。これまで、なんとなく、自分の経験だけで、手探りで行ってきた選手の心理面について理解したり、それを選手に言語化して伝えるツールとして現場に広く応用できるのです。
もちろん、「どこに着目して、どのようなプログラムを介入すると何がどのように変化するのか」というコーチングの仮説が求められます。この仮説による介入プログラムとそれによる結果によって、改善策や次に目標も決めやすくなるのです。これまで、多くの指導者にライフスキルプログラムを実践していただき、その結果などを共有していただきました。ライフスキルの指標があることで、仮説も設定しやすくなったようです。ホームページにある「コーチングの仮説検証」を参照してみてください。

参考文献

・島本好平.東海林祐子.村上貴聡 .石井源信 (2013),『アスリートに求められるライフスキルの評価: 大学生アスリ-トを対象とした尺度開発』.スポ-ツ心理学研究,40(1):13-30.
・ 吉田良治(2013),『ライフスキル.フィットネス 自立のためのスポーツ教育』岩波書店, pp.3-23.
・WHO (1993);Division of Mental Health : Life skills Education in Schools, pp.1-8 川畑徹朗.西岡伸記.高石昌弘.石川哲也監訳(1997),『WHOライフスキル教育プログラム』.大修館書店,pp.9-59.

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