HYPOTHESIS OF COACHING

\ コーチングの仮説 /

なぜ優秀なプレーヤーはコーチとして苦しむのか?
ハンドボール元日本代表、三重バイオレットアイリス 石立真悠子さん

REPORTED BY

東海林祐子

今回はハンドボールの元代表で長く活躍された石立真悠子コーチのケースを紹介します。

石立コーチは2020東京オリンピックパラリンピック競技大会で大活躍されたその年に,三重バイオレットアイリスのコーチに就任されました.日本トップリーグ連携機構(以下、JTL)での私が担当したライフスキル研修を受講されたときはコーチに就任されて1年足らずでした。研修を受けられたときはコーチとして,多くの悩みを抱えておられました。それは日本代表レベルのトップアスリートがコーチになったときに持つ共通の悩みかもしれません。日本代表で長く活躍するには、日々、知力と体力を鍛え、そして自己との向き合い方も非常に深いものでなくてはなりません。衰えていく体力をカバーする技術や思考は、長くなればなるほど深く自分を見つめ、追及していくものと想像します。
そうした思考から、突然、コーチ側の視点に立つと、「なぜ、もっと努力しないのか?」と多くのストレスを抱えることになります。しかし、それをストレートに選手にぶつけてしまうと選手は意欲をなくしてしまいます。石立さんは、私が担当したJTLでの研修で、アメリカンフットボールの元日本代表で、現在は、オービックシーガルズのコーチである古庄直樹さんとグループワークした際に言われたことに、はっとしたと言います。「コーチはリーダーシップよりはマネジメントができるようになるといい」。同じような悩みを古庄コーチも抱えていたそうです。コーチ自身が、自分が現役選手の時にできたからといって、選手ができるとは限らないということです。この視点は重要です。人がそれぞれ獲得したコツやカンは自分自身の感覚に基づくものであり、それは全く同じことではないということが言われています。

~~石立コーチのインタビューから~~

実践した内容としては、翌日から選手の声を聞こうとするようにしたことです。また、チームづくりの中で、最初はこちらから提示してやっていってもらうことも多かったのですが、全部、私自身がやるのではなく、選手たちに任せる部分を徐々に増やしていきました。監督とのコミュニケーションも大事にしています。私自身が迷って監督に相談しても答えが出ない時には、選手にも意見を求めるようになりました。
また、自分の考えを伝えていこうとするコーチングスタイルから、監督の真意や、本意が伝わってないと感じる時のフォローアップが今はメインになってきている気がしますね。
チームがどういう方向に向かっていくのかというところを、伝わってない時に伝えていく役割という感じですね。
選手に監督の真意などをかみ砕いて伝えるときもありますし、監督にも監督の考えが選手に伝わってないことを話したりします。こうして選手と監督の両方の視点がうまく重なるようにしています。そういった面では、それぞれが考えていることを引き出すためにしっかりと選手を観察し、対話し、監督とコミュニケーションをとってチーム全体が同じ方向を向いていけるようマネジメントの視点を取り入れていくことが大事だと思っています。

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